ただひたむきに ブーランジェリー・トロワ
こちらの求人は募集が終了しました。
ご応募ありがとうございました。
「なんだかんだパンを作ることがおもしろいんですよ。12年くらいやってますけど、ここまで続けて作りたいものなんて他にないですし、未だに自分が作りたいもの合格点を与えられるものは、作れたことがないですから」
10年以上のキャリアを持つパン職人、芦川淳さんは取材の中で、そうストイックに語られました。
レシピ通り毎日同じように作り続けていても、同じものは作れない。
奥が深くて難しい、だからこそこの仕事は続けられるのかもしれません。
ただ美味しいだけのものではなく、家族が毎日安心して食べられるパンを作り手が見える形で提供する。ひとつひとつ丁寧に、想いを込めて。
そんな町の小さなパン屋さん『ブーランジェリー・トロワ』。
今回は、このお店の基礎となる体制や仕組みを一緒に考えていってくれる、店長候補となるスタッフを募集します。
墨田区の北部、東向島。
駅から歩くこと5分ほどで、緑豊かな向島百花園が見えてきます。その脇をしばらく歩いたところに、お店はありました。
赤い窓枠が目印のお店は、自宅のガレージを改装して2015年4月にオープンした、区内でも新しいパン屋さんです。
店内はこじんまりとしていますが、オープンキッチンが併設された工房兼ショップ。その場で作り手が見える安心感があります。
朝早くに訪問したにも関わらず、店内には既にたくさんのパンが所狭しと並び、香ばしい匂いはとても気持ちの良い朝にしてくれます。
工房では、もくもくとパンを製造する芦川淳さんの姿がありました。
今朝も3時から製造を開始していたそうですが、製造が落ち着くのは、午後になってようやく。
淳さんは、29歳の時にそれまで会社員として働いていた会社を辞め、有名パン屋さんに入社。そこで12年ほどパン職人としての修行を積んでこられました。
まずは、お店をはじめたきっかけから伺ってみます。
「やはり、自分のお店を持ちかったということですね。前職のパン屋さんに入った時から、将来は自分でお店を持つという考えでしたので」
「もともと、料理人になりたいって想いがあったんです。なかなか踏み出せずにいたんですが、30歳を過ぎたら転職もしづらいのかなと思って、その前に会社を辞めて目指しました」
29歳から目指したパン職人の道。
高校を卒業してすぐに目指す方が多いこの業界、一緒に働く仲間はひと回りくらい年齢が違い、かなり遅いチャレンジだったそうです。この仕事を、辞めようと思ったことはないのでしょうか。
「ありましたよ。入って1か月くらいで辞めようと思いました。体力的なことと長時間の勤務がきつかったですね」
「今は普通にやってますけど、朝は早くから夜遅くまで働くみたいなのが当たり前で、体調を崩す人もいっぱいいましたし、新入社員なんて半年でほとんどが辞めて行くような世界でした。でも、やりたい想いがあったから続けられたんでしょうね」
以前、勤めていた店舗は特に忙しく、1日6000個ほどのパンを作ることもあったそう。独立された今では、1日350個ほどと数が減った分、ひとつひとつをより丁寧に大事に作られています。
「自分のお店ですし、以前と比べるとより丁寧に、より想いを込めて作れるようになりました。企業店の100円のパンを選ぶ人もいると思いますが、多少値段が張っても個人店の300円のパンを選んでくれる人がいます。だから、それだけの想いを込めたものを提供したいですね」
ここで作られるパンの平均単価は、200円を超える。コンビニやスーパーで売られているパンに比べると割高ですが、それでも毎日ここのパンを求めて買いに来てくださるお客さんもいるそうです。
焼きたてをいただくと、生地がしっかりとしていて風味が強く感じる。これまで食べていたパンの生地とは明らかに違い、シンプルなパンは毎日でも食べたくなるのも頷けます。
生地へのこだわりが、この飽きないパンを生み出しているそうです。
「とにかくおいしい生地を作りたいと思っているので、小麦の風味がしっかり出るようにしています。具材でごまかすのはいくらでもできると思うし、そういう方法もあるとは思いますが、うちの主役は生地。生地をいかにおいしく作るか、というところを大事にしています」
10種類ほどの小麦粉を一からブレンドして作る生地は、産地にもこだわっています。
「以前は、国産小麦粉を1種類くらいしか使っていなかったんです。国産の方が1.5~2倍くらい高くはなりますし、10年前くらい前は味もいまいちだったり、ふっくらもしなかったので、国産を避けているパン屋さんも多かったんです。でも、今は改良されてパンに合うようになりましたし、やはり安心安全なので、最近はどんどん切り替えています」
お店の人気商品、チーズ・フォンデュ。ふっくらとした生地の中にはとろとろの濃厚チーズがたっぷり。ひと口食べるとチーズが溶け出す贅沢なパンです。
お店の通常オープンは9時半ですが、早朝に30分だけ焼き立てが提供されます。この商品を目当てに朝早くから来店される方も少なくないんだとか。
パン作りは、天候や気温によっても左右されるため、レシピ通りに作るだけでは絶対に作れません。そこには長年の経験や勘が必要だといいます。
「湿度によって出来が変わってしまうので、天候にすごく左右されます。だから、雨の日はちょっと水分量を変えたりしますが、どれくらい変えるかは感覚でしかなかなか掴めません。夏と冬でも違いますし、同じ小麦粉でもやっぱり微妙に違ったりして、そこの調整は0.5%とか1%ぐらいの違いなので、経験が一番じゃないですかね」
「本などに作り方って載ってたりしますけど、それを見て作ったところで同じものは作れません。有名なパン屋さんがレシピを載せてるのは、それくらい自信があるからじゃないですかね」
パン作りという仕事に憧れる方も多いと思いますが、実際は想像以上の肉体労働。
常に立ち仕事なのは当然ですが、単純にパンをひとつ作るには4時間ほどの時間がかかります。それを何十種類も作るには、どうしても時間がかかってしまい、必然と労働時間も長くなってしまうそうです。
さらに、自分でお店を運営するには、技術以外にも必要なことが多いと、ここを始めてみて痛感しているそうです。
「今は、ある意味自分のやりたいようにできるようになりました。でも、技術がある程度つけばって感覚で始めましたが、やりたいこととお客様の求めていることが合致しないといけないし、経営も考えていかないといけません。お店を始める前は、好きなことができると思ってはじめたものの、いざやってみるとなかなかそういうわけにもいきません」
淳さんとは対象的に、パンに関わる仕事の経験がなかったという、奥さんである千晶さんにもお話を伺いました。
今では、3人のお子さんを育てながら、お店を一緒に切り盛りされています。
お店の全体的な管理やサンドイッチなどの製造、通販の対応は千晶さんの仕事です。
この仕事の大変なことってなんだと思いますか?
「家庭的でアットホームなんだけど、やっぱり夫婦で一緒に働いてるのは他と比べると特殊かなと思います。それに、若くて小さな会社で1年半しかやってないので、基礎がまだまだできていません」
「スタッフに指摘されてから気づいて、そこから一緒に考えましょうってことも多々あるので、安定感とかはあまりなくて不安にさせることもあるかもしれません。そのあたりは、働いてくれる方のためにもちゃんとしていかないとなって思っています」
まだまだ体制が整っていないところも多いそうですが、出来上がっていない場所ならではの楽しさがあるように思います。
「一緒に考えたり、悩んだりって楽しさもあると思います。新作を作るのも、みんなであーでもないこーでもないって試食して意見を言って、みんなで主人を困らせるんです(笑)やっぱりそういった楽しみが、既成のものを売るのとはぜんぜん違うかなと思います」
お店は日曜と月曜の週2日間が店休日となっていますが、これを週1日に減らしもっとお店を安定して営業していきたいそうです。
そのために、まずは千晶さんのアシスタントから始めてもらい、日々のルーティーンワークを引き継いでいく。そして、いづれはお店全体を任せられるような、店長候補となる方を求めています。
「ゆくゆくは、お店を増やすというよりは、販売所を作りたいと思っています。卸先を増やすことも必要ですが、販売のみの店舗を作るということを考えていて、そのためにも一緒に働いてくれる方を増やしたいんです」
保存料などを使っていないため、その日に作ったパンは翌日には持ち越しません。たくさん作っても雨の日など天候が悪い日には、売れ残ってしまうことがどうしてもあるため、来てくださった方が買えるように製造数を増やすことももちろんですが、安定して売れるために販売場所を拡大することも視野に入れておられます。
「やっぱり作ってるところを見てもらいながら、買ってもらいたいというのはあるんです。でも、この場所だと狭すぎてお客様にも迷惑がかかっています。買い物がしづらかったりとか、数が少なくて欲しいパンが手に入らなかったり。せっかく来てくださる方に対して、もうちょっと対応できるように体制を整えていきたいです」
基本的には販売や接客がメインとなりますが、製造に携わりたい方も大歓迎だそうです。
一人でできる量をずっと続けていてもお店は大きくなっていかないし、淳さんが体調を崩せばお店を開けることもできなくなるため、少しづつお任せしたいと考えておられます。
「パン作りも、教えられることなら学んでいってもらえたらと思います。両方できるにこしたことはないので、パン作りに想いのある方なら大歓迎です。初めはパートや契約社員になると思いますが、お互いにやっていけると判断すれば、正社員になっていただくことも考えてます」
今回募集する店長候補は、接客や販売、製造はもちろんですが、今後お店を発展していく上で一緒に考え行動してくれる方。そういう意味では、お店が出来上がっていく過程が見られる醍醐味があるかもしれません。いつか自分でお店を出してみたい、そんな方なら身近でお店づくりが感じられる環境だと思います。
未経験でも、この仕事はできるのでしょうか?
「大丈夫です。私もスタッフも知識も経験も一切なかったので。でも、やってみるとすごくおもしろいですよ」
現在、ここで働くスタッフは、芦川さんご夫婦の他に、パートさんが2人。
オープン当初からここで働いている、田中さんにもお話を伺ってみます。
現在は、週に2日程度こちらで働いているそうですが、パン屋さんで働くことは始めて。
ここで働いてみていかがですか?
「販売の経験はありましたが、パンははじめてでした。でも、やってみて楽しいですし、とても美味しいので味は保証できると思います」
「それに、ママ友の付き合いから手伝うことになったので、そういう意味では子供のことを全部分かってくれてるのはありがたいですね。子供のことで何かあれば、相談すればとても融通が利く環境ですし、立場が同じなので働きやすいです」
取材中、ほとんどつくる手を止めることがなかった淳さん。
パンと向き合う時間は、何を考えているのかきいてみました。
「逆に何も考えてないですね。でも、作るのは楽しいです。毎日やってても、毎日同じものを作ってても、同じものは作れないので」
「おそらく、毎日同じことをやって同じものを作って、それで同じものを作れるようになれば、一人前というかそこでようやくちゃんと作れる段階じゃないですかね」
どんな方と一緒に働きたいですか?
「臨機応変に動ける方いいですね。決まったことだけやってる方じゃなく自分で考えて動ける。あとは、パン屋に限らず飲食の経験があったり、パンが好きだといいですね」
大事に作ったパンは、どんな方に食べてもらいたいですか?
「パンをあまり好んで食べない人にこそ、食べて欲しいです。パンってこんなにおいしいものなんだと分かってもらいたいです」
「ぼくも、正直そんなに食べなかったんです。この仕事をはじめてから食べるようになって、いろんなパン屋さんを見ていくと、個人店って今まで食べてたのとはぜんぜん違っていて、店主が想いを込めて作っています。だから、どこの店もぜんぜん違うので、そういうことを食べて感じてもらいたいなと思っています」
小さなお店だから、これから大きく変わっていくこともあります。
でも、製造も、販売も、接客も、毎日は同じことの繰り返しです。
こつこつとひたむきにやっていけば、お店と一緒に成長していける仕事だと思います。