初めての募集と採用 すみだ珈琲
すみだの仕事は、掲載のための営業を基本的には行っていません。でも、始めたばかりの頃は当然だれにも知られていないし、掲載させていただける見込みもありませんでした。
そこで、一件目を掲載させていただくにあたり『掲載させてもらえませんか?』と、お願いをさせていただいたお店が、ただ一つだけあります。
それは、今から約3年前に遡ります。
当時このサイトを始めたのは、2014年の12月のこと。目指すイメージは固まっていたので、とにかくオープンしようととりあえずはじめたところ、すぐに知り合いからこんな連絡が入りました。
『錦糸町のカフェでスタッフを募集しているよ』
早速一人でお店に伺ったものの、お店の方と面識はなく話しかけるきっかけをカウンター席に座って伺いながら、ようやくお客さんがいなくなったタイミングで、こう切り出しました。
墨田区の求人サイトを始めたいので、
掲載させてもらえませんか?
店主にそう伝えると、最初は驚いた表情を浮かべられていましたが、『もちろん、大丈夫ですよ。ぜひお願いします』と、笑顔でこう答えてくださいました。
初めての取材は、次のお客さんがいらっしゃるまでの、10分間ほど。いつ来店されるかも分からない中、無我夢中でお話を伺い写真を撮影しました。今からではとても考えられないほど簡単な取材でした。むしろ取材とは言えないようなものだったと思います。
そして、できあがった初めての記事を、期待と不安が入り混じる中、世の中に送り出しました。とは言え、スタートしたばかりのサイトを見ている人なんていないだろう、と反響はほとんど期待していなかったように思います。
すると、掲載して2ヶ月が経った頃にお店から採用のご連絡が入りました。嬉しさというよりも、まさか見てくれている人がいたんだと、信じられなかったのが正直な感想です。
そして、この時に応募してくださった方は、あれから2年半が経った今でも、このお店で働いてくださっています。
今回は、当時のことや実際に働き始めた時のことなど、お店のご厚意でいろいろとお話を伺う機会をいただきました。ぜひご覧ください。
下町の小さな古民家カフェ
すみだ珈琲
以前は、靴やわらじの町工場として使われていたそう
錦糸町駅から徒歩5分ほどのところに、ビルとビルの間に挟まれたとても小さな珈琲屋さんがあります。
この地の名前を店名に付けた『すみだ珈琲』は、2010年に開業した珈琲専門店で、すみだの仕事で初めて取材をさせていただいたお店です。
昭和31年に建てられたこの建物は、リノベーションされてはいるものの、昔ながらの温かみを残しここが錦糸町ということを忘れてしまうゆるやかな時間が流れています。1階のカフェは、カウンター3席とテーブルが4つ。10人も入れば満席になってしまう、こじんまりとした空間はお客さんとお店の方がほどよい距離で接することができます。
3年前に取材で訪れた頃は、少しレイアウトも違いました。席数は今よりもさらに少なく、焙煎機が入り口のそばに置かれていましたが、あれからお客さんが急増したこともあり、焙煎機は2階へと移動し席数を増やされたそうです。しかし、それでも土日になるとお店の前には列ができていることも少なくありません。
店主の廣田さん自らが焙煎を行った豆は、テイクアウトや卸での販売にも力を入れられています。もちろん焙煎したばかりの珈琲を雰囲気ある店内でいただけるのも、並んでまでこのお店に来たい理由の一つ。
でも、このお店の特徴は、それだけではありません。
オリジナル商品『THE COFFEE HOUSE』
店内の奥に進んでいくと、カウンターの奥には鮮麗されたパッケージの商品がずらっと並びます。これは、すみだ珈琲オリジナル商品『THE COFFEE HOUSE』シリーズ。墨田区が主催するものづくりコラボレーションの企画によって、デザイナーさんとのコラボレーションから生まれた商品で、お店が多くの方に知られるきっかけにもなったそうです。
2013年から始まったこのシリーズは、同年4月に初となる商品、スペシャルティコーヒー5種が楽しめるコーヒーバッグ『THE COFFEE HOUSE BY SUMIDA COFFEE』を発売。そして、翌年には自宅でもお店同様の味わいのしっかりとしたアイスコーヒーが手軽に楽しめる『THE COFFEE HOUSE LIQUID』を、さらに2016年には普段のお料理やお菓子に使えるソース『COFFEE SAUCE』と、この4年間で3つの商品を開発。
そして、アジア限定のパッケージデザイン賞である「Topawards Asia」を、2016年にTHE COFFEE HOUSE BY SUMIDA COFFEEで受賞されました。
『江戸切子』でいただく特別な一杯
そしてもう一つの特徴は、提供される美しいコップ。これは、伝統のガラス工芸である江戸切子で、熱い珈琲が飲めるようにと特別に開発されたものだそうです。高価な江戸切子で珈琲をいただけるのは、なかなかできない体験です。
江戸切子をお店で使われている理由は、墨田区の産業であることと、店主のご実家が120年続くガラス製造店の『廣田硝子』ということもあり、コップだけでなく店内の装飾にも江戸切子を使用されています。
そんなすみだ珈琲で今も働く、竹内 優佳さんにお話を伺いました。すみだの仕事で初めて掲載した記事に応募をしてくれた方です。
働くことが楽しい
ここで働き始めたのは、20代前半のとき
当時、別の仕事をしながらも、休みの日も別に仕事を持ちたいもっと働きたいという想いから、すみだ珈琲の求人に応募をしてくれたそう。
全く知名度のなかったこのサイトを、どのようにして見つけたのでしょうか?
「実は、どうやって調べたのか私もちゃんとは覚えてなくて。普段は別の仕事しているんですけど、休みの日に何かしたくて、カフェとかで働きたいなと思っていました。学生時代に錦糸町でアルバイトをしていたことがあったり、お店にも一度来たことがあって、それで探したんだと思います」
「ただ、記事の掲載が12月で、私が応募したのが2月くらいだったので、ずいぶん日が経っちゃってるけど、これはまだ応募できるのかな?と、ちょっと心配だったのは覚えてます(笑)」
店内の装飾にも江戸切子が用いられている
応募した時、他にも応募をしていましたか?
「いえ、ここだけです。ただ、受けたときは落ちると思っていたんです。募集内容に、土日を含めて週2日以上働ける方と書いてあって、私は平日2日くらいしか働けないので、最初から難しいかなと思っていました。でも、ここで働いてみたかったし、働けたら楽しいだろうなって思って応募しました」
別の仕事というのは?
「全く珈琲やカフェとは関係なくて、フットケアのサロンで働いています。そちらがメインの仕事で、休みの日を使って月に4、5日ほどここで働かせてもらっています」
ここ最近では、パラレルキャリアと呼ばれる本業を持ちながら、それ以外の時間を利用して第二の活動を行う新しい働き方をする方が増えています。
竹内さんは、休みの日にわざわざ働いているのはなぜですか?
「息抜き…といったらお店には申し訳ないですけど、ほんとそんな感じで楽しいんです。学生時代も喫茶店で働いていて、それがすごく楽しかったので、働くというよりは、自分の癒やしと楽しみのためにここで働かせてもらってる感じです」
「だから、一つの仕事だけをやるようになったときに、少し物足りなさを感じたのと、カフェの雰囲気が好きでそこにいたかったんです。私は、お給料とかは気にしてなくて、それよりもこれがやりたかったし、逆にずっとお話をしてるだけでお給料をいただいて申し訳ないくらいです」
ここで働いてよかったことはありますか?
「やっぱりお客さまと会話ができることですね。あとは珈琲も好きなので、それに携われることもそうですし、香りだけですごく癒やされます」
「あと、ここで働いてる他のみなさんも別に仕事をされていてお話を聞けたり、廣田さんも別の仕事をずっとしてらしたので、たまにその頃のお話を聞いたりできるのは、すごいいい刺激になります。実際、お店がすごい発展してたり、いろんな商品を考えたりされてますし」
求人サイトからの募集
店主の廣田 英朗さん
廣田さんは、無印良品の飲食事業Cafe MUJIの立ち上げに携わっていた方で、10年近く働く中で次第に自分で飲食店を立ち上げたいと考えられたそうです。そして、日本にあるさまざまな食材を探していく中で、珈琲と出会い世田谷の堀口珈琲さんに通い始めたことが、このお店を始めるきっかけになったそうです。
すみだ珈琲では、これまで積極的には求人を出されていませんが、あの時に掲載をさせてもらえたのはなぜでしょうか?
「求人は基本的に出さず、お店のトイレなどに張り紙をするくらいで、3年前はちょうどお店が急激に伸び始めた頃だったんです。その一つの理由としては、THE COFFEE HOUSEシリーズの商品を売り始めて1年弱が経ち、お店の知名度が少しづつ上がってきたこと。それまでは、平日はぼくが一人で、土日に一人くらい入ってもらう体制でしたが、それだとだんだん厳しくなって、スタッフの人数を増やしたいと考えました」
その時に採用された中の一人が、竹内さんだったんですね。
「当時、何名か採用したのですが、その中でも、彼女は一番年下で大人しい印象でした。でも、働きだすととても気配りができて、堂々としているし、お客さまとの会話のキャッチボール一つをとってもすごくしっかりしていて、いつも助けてもらっています」
現在働く従業員は、7名のアルバイトスタッフと、社員が1名。
竹内さんが出勤されるのは、月に4~5日ほどと多くはありません。さらに、月に1日しか出勤されない人もいるそうで、こうした雇用の仕方はお店として負担が大きいのではないでしょうか?
「負担という意味では、例えば情報共有でしょうか。でも、必ずしも大きな負担ではなく、やり方を考える事でクリアできると感じており、むしろ、プラスの面を感じています。例えば、他の業種業界でも日々仕事に一生懸命取り組まれいて、姿勢や仕事の進め方を身につけられている方が、もう一つの道をスタートさせる場合は意欲的で吸収も早い。また、別の視点での意見はスパイスをくれるし、新たなことを提案してくれたりもします。ぼく自身やお店にとってもすごく良い刺激であり、そういう意味ではトータルで考えるとプラスの方が多いと感じています」
「また、シンプルに見えるサービスこそ、その本質が求められると思っています。働いてくれるスタッフにとっても、新たな経験や人との出会いを重ね、視野を広げる場所としてもらえたら嬉しいです。これからも、パラレルキャリアという考え方は一つの選択肢として積極的に取り入れていきたいと考えています」
THE COFFEE HOUSEはギフトにもちょうどいい
初めての取材させていただいてから、この3年ほどですごく忙しくなりましたよね。
「そうですね。THE COFFEE HOUSEシリーズを販売するようになってから、おかげさまで近隣の方に限らず多くの方に知って頂けるようになりました。今年からギフトボックスやデカフェ商品など、より多彩なニーズにお応えできるよう種類を増やしているところです」
「また、多くのお客さまに店舗へお越し頂けるようになり、お待たせしてしまう事も増えてしまったため、お店の顔でもあった焙煎機を2階に上げる改装を行い、席数を増やすなどしてきました。少しずつではありますが、成長していると感じています」
新しい商品を次々に出し、お店の知名度も上がってきましたが、今後はどういったことをお考えでしょうか?
「目標としているのは、地域の誇りであるお店となることです。お店を始めた当初からその思いは変わりません。地域の方がお友達やお知り合いに紹介したいと思っていただけるようなお店であり続ける事を目指しています」
「また一方で、さまざまな角度から全国や海外へ発信していく事も続けていきたいと思っています。さらにお店を大きくしたり店舗を増やしたりということも、手段として視野に入れています。お店としてステップアップしていくために、そういった面でも一緒に盛り上げてくれるスタッフを増やしていきたいと考えています」
人を育てるには時間も体力も必要で、誰かを雇うのは企業やお店にとってとても大きなことです。だから、すみだの仕事で紹介する時は、採用後に起こりうる雇用者と求職者の間のミスマッチをできる限り減らしたいなと強く思っています。
今回、サイトを通して初めて採用された方にお会いして、その方が今でもやりがいを持って働いているということは、たまたまだとしてもサイトの目指すべきところを体現してくれていて、こういった採用がもっともっと生まれていくといいなと思います。
店舗名 | すみだ珈琲 |
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住所 | 〒130-0012 東京都墨田区太平4-7-11 |
TEL | 03-5637-7783 |