2018.04.11(水)

旅するファブリック rétela

多くの人が捨ててしまうものでも、人によっては価値を見い出せるものもあります。

これまで捨てられていたものが再利用されることで、資源として再び蘇ったり、新しい価値が生み出される可能性を秘めたもの(アップサイクル)は、この世の中にはまだまだたくさんあるのかもしれません。

インドには、古代から受け継がれる『ブロックプリント』という手仕事があります。

木の版(ブロック)に模様を彫り、数十メートルに渡る布に版画のように繰り返し版を押し当てプリントしていく技法です。手間と時間をかけて人の手によって押される模様は、独特のかすれやにじみがあり、まるで絵画のように美しいファブリックです。

このブロックプリントを作る際、プリントする布の下に作業台が汚れないよう別の布を敷きます。この下敷きとして使われた布は、一つのブランドの製造作業が終わった時点で交換され、廃棄されています。

この布を回収し、リユース(再使用)してバッグやエプロン、スリッパや帽子といったライフスタイル雑貨へと生まれ変わらせているのが、エシカルブランドの『rétela(リテラ)』です。

約3週間ブロックプリントの製作の下敷きとして使われた布は、何重にも色が塗り重ねられることで独特の柄と風合いを持ち、計算して作られたものはありません。この世に二つとして同じものがない珍しさと、機械で計算して作られたものには決して真似できない柄は、今までに出会ったことがないものばかり。

仕事を転々とする中で見つけた
自分のブランド

rételaは、2017年2月の合同展『EXTRA PREVIEW』と『rooms』で最初のお披露目。その後も、百貨店等にPOPUPで出店するなどし、ジワジワと認知度を高めてきました。ブランディングはもちろん、デザインから製作、そしてインドにある工場とのやりとりといったディレクションに至るまで全てを一人でこなす、大越敦子さんにお話を伺いました。

大越さんがブロックプリントに辿り着き、rételaを始めたのは2016年の終わりのこと。

服飾の専門学校を卒業した大越さんは、子供服を作るメーカーに入りパタンナーとして入社し、キャリアをスタートします。

しかし、3年が経った頃、カバンなどの立体物の製作をしてみたいと転職を決意。カバンではないが、アパレルブランドの下請け会社へ転職。職人とデザイナーの間で、進行や生産管理、仕様書作成を担当する。製品の作り方や海外工場とのやりとりを一通り学ぶと、ここも3年ほどで退職。

その後、バイトをしながらものづくりを続けていたところ、海外の有名カバンブランドの修理を請け負う会社の求人を見つけ、ようやくカバン作りに携われる会社に就職。デパートなどに預けられたカバンの修理を行う会社でしたが、ここも約3年で退職。

そして、次に選んだ会社は、テレビや映像関係の大道具や小道具などの造形物を作る会社でした。

「たまたま図書館で社長の本と出会いすごい感動しました。ホームページに求人は出てなかったけど、見学できると書いてあって、勢いで電話して行きました。なぜかその場でクリスマスツリーの製作を手伝うことになって、後で履歴書を送ったら採用になりました」

「洋服やバッグとは離れますが、考えて自分の手で作ることを鍛えられた時期でした。造形師さんと組み塗装したり、着ぐるみやミニチュアの家、ジオラマ、子供の遊具、なんでも作っていました。朝も夜もなく働いて大変でしたが、仕事的にはここが一番楽しかったです」

しかし、そんな会社もまたしても3年で退職。
続いて選んだ会社は、カバンブランドの下請け会社でした。

「ハローワークでたまたま見つけた求人でしたが、ここでやっと職人さんとバッグや型紙を作ったり、縫製したり、サンプルを作ったりできて、バッグの型紙のとり方などを教えてもらいました」

しかし、ここもある程度の経験を積むと3年ほどで辞め、いよいよ37歳で独立へと踏み出します。

3年サイクルから、独立へ。

独立に合わせて前職から買い取ったミシン

インドで作れないものや試作は大越さん自ら行う

何度も転職をしたのには、会社に不満があったのでしょうか?

「どの会社にも不満はありません。体力的に辛くて体が持たなかったけど、ほんとは造形の会社でずっと働きたかったくらいです。嫌で辞めるのは癖になって繰り返すというか、きっとあとから違う問題になって襲いかかってどんどん大きくなるので、嫌で辞めることはしません」

「じゃあ、なぜ転職を繰り返したかと言うと、3年ごとになぜか悩むんです。煮詰まるというか、自分なりに咀嚼して納得してやりきったなって思って、他のことをしたくなるんです」

このタイミングで独立したのには、何かきっかけがあるのでしょうか?

「この時も最初は仕事を探していて、カバンを作る会社に応募したりもしました。でも、落ちてしまい独立するか就職するかで悩みました。そんな時にすごく尊敬する帽子を作るアーティストさんに後押ししてもらったことが大きなきっかけでした」

再生をテーマにしたものづくり

レジ袋を再利用して作った靴と財布

独立後、知り合いからの仕事だけではまだまだ食べていけず、バイトをしながらの日々が続く。数年が経った頃、テーマパークのスタッフ用バッグの依頼が舞い込むことで、バイトを辞めて製造だけに専念できることになった。しかし、依頼を受けて作る下請け仕事だけでは、やはり不安があったと言います。

「独立した頃は、下請けで仕事を受けていました。でも、それだけでは心許ないので、自分でも何かやらないとと思っていたところに、レジ袋を使って商品を作る子と交流会で知り合ったんです」

スーパーやコンビニでもらうレジ袋をリユースし、商品を作る女性と出会いその場ですぐ意気投合。二人の力をかけ合わせ、レジ袋からカラフルな生活雑貨を生み出すアップサイクルブランドとして、一緒に立ち上げたものが当時のrételaでした。現在、アトリエとして入居する台東区が開設した創業支援施設である『浅草ものづくり工房』も、その時に二人で借りた場所でした。

廃棄物であるレジ袋が、別の新しいものになり再利用する活動は高く評価され、あっという間に二人の予想をはるかに超える大きな反響を呼ぶことに。

しかし、そのプロジェクトはわずか1年ほどで辞めることになります。

「反響が予想以上ですごい話題になってしまいました。やりながらブランディングしていくつもりが、メディアに取り上げられ、周りの盛り上がりに本人たちはついていけませんでした。一緒にやってた子も彼女なりのペースでやりたいということで抜け、私もその当時はrételaを辞めようと思っていました」

インドのファブリックとの運命の出会い

ブロックプリントを作る際の木版

「でも、社会とつながり、人を笑顔にするようなものづくりをしたいという思いがあり、決して日の目を見ない材料に光を当て、誰も見たことのない手作りで温かみのある製品を製造したかったんです。そんな想いがあって2ヶ月ほど悩んでいたところ、ネットでこの生地に辿り着きました」

ブロックプリントの製造過程で生み出されるこの生地と出会った大越さんだが、インドとの繋がりがなく、まずは取引をしてくれる工場を地道に探していったそうです。

「最初、全くツテがなくてインド雑貨屋さんの商品を買ってきて、洗濯ネームに書かれた会社の番号に電話して生地を取り寄せました。でも、足元を見られて原価が合わず諦めかけていたところに、友達の紹介だったメーカーが協力してくれ、そこから徐々に足元を固めていきました」

現地で実際に縫製を担当されている方

縫製前の生地

大越さんの生地は、ブロックプリントで使われた後、廃棄される前に生地を回収し、一晩お湯につけて柔らかくします。そして、三度の水洗いと天日干しを繰り返し、生地が乾くと裁断・縫製・検品といった工程を経て、ようやく商品にアップサイクルされます。

非常に手間のかかる工程ですが、通常廃棄される布を製品として蘇らせる。その作業もインドの現地で行うことで、持続可能な循環を目指しています。

お願いをしているインドの方の反応はどうですか?

「私もそれは心配で、嫌がられてないですか?って尋ねたことがあります。たくさん生地が出るわけではないし、すごい数を作るわけじゃないので、縫製の仕事をたくさんお願いできるわけではありません。だから、お金にはならないんですが、それでも楽しんで作ってくれてるみたいです」

大越さんにから見て、インドの方のイメージは?

「パワフルで、とにかく元気で陽気ですね。あと、とってもチャーミング。インドって、すごい納期遅れをして何があるか分からないと、紹介してくれた友達から聞いてて最初はドキドキしてましたが、そんなにトラブルもありませんでした」

旅する布

ブロックプリントのスカートエプロン

インドの手刺し子で作られたシューズ

rételaの代表的なアイテムの一つ、スカートエプロン。この生地を使って最初に作った製品です。

「どういう生地が出るかも分からずサンプルをお願いしたので、ただ汚いだけだったらどうしようとほんとドキドキでした。でも、お願いした工場さんがキレイな色柄のブロックプリントを作っていて、最初のサンプルを見て安心しました」

この生地を使って、エプロン、ポーチ、ショートパンツ、トートバッグ、ショルダーバッグ、スリッパなど、今では8つの商品が生み出されました。

そして、この生地に加えインドのベンガル地方に古くから伝わる繊細な針の仕事、手刺し子で作った製品作りも行うなど、アップサイクルという方法を通し、このブランドが日本と世界各地の架け橋になることを目指しています。

現在rételaの製品が購入できるのは、東京蔵前、西荻窪、埼玉、神戸、和歌山などの生活雑貨を取り扱うセレクトショップなど。ドレスエプロンは、長野県にある上田市立美術館のミュージアムショップのスタッフ用ユニフォームとして採用され、日本全国に広まりつつあります。

rételaのドレスエプロンを着用する大越さん

徐々に取り扱うお店も増えはじめたrétela。この生地を使った活動を始めてから、大越さんの周りの環境も変わってきたそうです。

「これまで、いろんな人に迷惑をかけながらここまでやってきましたが、インドの布を始めてから、自分が会いたい人に繋がれるようになってすごく良い流れになりました。だから始めてよかったなと思います」

「インドの方もせっかく協力してやってくださっているので、一回だけじゃなくてずっと継続してインドと関わりながらやっていきたいです。そして、この布が当たり前になっていったらいいなと思ってます」

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