一人ひとりを大切にできる地域社会へ NPO法人カラフル・コネクターズ
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墨田区には、かつて100件以上もの銭湯がありました。しかし、日本の各家庭の浴室保有率は95%以上にもなり、銭湯は次々と廃業していき今では数十件ほどになってしまいました。そんな危機的状況にある銭湯と、福祉施設が手を組み新しい形で運営をする場所が墨田区にはあります。
就労継続支援事業所という、企業への就労や、社会への参画を目指す障がいのある方(利用者)が、実際に働き、社会生活に適応できるようトレーニングするための施設を運営する『カラコネオフィス』は、2015年5月に墨田区石原三丁目にある『御谷湯』の建物の中でスタートした福祉施設です。
一般的な福祉施設では、利用者さんは事業所内で事務や内職的な作業に携わることが多いが、カラコネオフィスでの主な仕事は、なんとこの銭湯での清掃業務。身体を動かすという仕事内容はもちろん、職場が銭湯というのは全国的にもとても珍しいそうです。
今回、カラコネオフィスを運営するNPO法人カラフル・コネクターズでは、障がい者の方が地域の一員となれるようにサポートをしてくれる、スタッフを募集します。
御谷湯は、墨田区内で70年続く老舗銭湯ですが、『人と環境に優しい福祉型銭湯』をコンセプトに、2015年に5階建てのビルにリニューアルされました。
4階と5階にある浴場は天井が高く、ビルの中にあるとは思えないほどの明るさと開放感。東京スカイツリーが湯船に浸かりながら眺められる半露天風呂も、とても気持ちが良さそうです。
まずは、清掃業務を見学させていただくために、このビルの2階にあるカラコネオフィスの事務所を訪ねました。本日の清掃を担当される利用者さんは20名ほど。朝礼とラジオ体操を行なったあと、すぐに御谷湯へ移動し、清掃が始まります。
基本的には、その日の朝に担当したい作業を自分で選んで取り組みます。
ポリッシャーで床を磨く方、湯をすべて抜いて浴槽を磨く方、洗い場を磨く方、みなさんとても熱心に作業をされています。長くやられている方は手際もとてもいいです。
今回募集するスタッフの仕事のひとつは、利用者さんの作業の進捗状況を見ながら、適宜指示を出していくこと。仕上がりのチェックなども行います。一緒になって清掃を手伝うこともあります。
清掃作業を見学させていただきながら、利用者の矢島さんにお話を伺いました。
矢島さんは、ここで働くようになって3カ月ほど。墨田区内にある薬師湯さんでも清掃業務を行っていて、カラコネオフィスには週5日通われています。
「身体を動かす仕事は、運動にもなるので好きです。時間内に終わるように考えながらも、できるだけ細部までていねいに磨きます。自分が頑張れば、多くの方に気持ちよく使っていただけると考えると、やりがいがあります」
湯気で暑くなった浴室の清掃は大変な部分もありますが、きれいになることで得られる達成感に、明るく開放感のある浴室で身体を動かして働く爽快感が加わることで、利用者の方の気持ちが前向きになっていくことを、スタッフのみなさんは実感されているそうです。
浴室以外にも、脱衣場や1階にあるコインランドリー、休憩室やトイレ、洗面台などを清掃し、お客さんが使った備品などの片付けも行います。週末には、一日で500名ほどの来店があり、その翌日には使用された膨大な数の貸しタオルをみなさんで畳むといった仕事もあります。
こういった作業を、利用者の方がスムーズに行えるようにサポートするのもスタッフの仕事のひとつです。
建物の2階にある広々としたオフィスに戻り、NPO法人カラフル・コネクターズの代表を務めるボーン・クロイドさんにお話を伺いました。
横浜で生まれ育ったボーンさんは、アメリカ本土に渡って仕事する中で、福祉の現場に出会います。障がいを抱えた方のサポートに関心を深めて日本に戻ると、とりわけ精神障がい者に対するサポートの遅れを痛感したそうです。
30代は学びと経験の時期と位置づけ、40歳から福祉業界で働き始めたボーンさん。その後、銭湯と福祉施設という異色のコラボレーションが生まれたのは、今から10年ほど前の出会いがきっかけでした。
「就労支援施設で働いている間、障がい者に対する偏見を感じることは、少なくありませんでした。無理解はなぜ起こるのかと考えると、彼らが地域社会に溶け込む機会が少ないからではないかと思ったのです。施設内での軽作業だけでなく地域に出て行う仕事であれば、地域の方の間にも理解が進むのではないか。そう思っていました」
そんなとき、墨田区役所の方が引き合わせてくれたのが、御谷湯のご主人、伊藤林(しげる)さんでした。
伊藤さんは、今から44年も前に「すみだボランティア会」という、肢体不自由者や知的障がい者の方の支援団体の代表を務めるなど、長年にわたり障がい者支援を続けてこられた方。
ボーンさんと出会い、御谷湯の清掃業務に精神障がい者の方を受け入れることを決められました。さらに、彼らの真面目な仕事ぶりを見て、働く場をさらに提供できないかと、多くの銭湯が加盟する東京都浴場組合を中心に、説得して回ったそうです。
障がいのある方が地域と関わりながら働いてほしいという想いを持つボーンさんと、障がい者支援に深い理解のある伊藤さんの出会いから約8年。
ボーンさんは『NPO法人カラフル・コネクターズ』を立ち上げて独立し、御谷湯は福祉型銭湯へとリニューアルする際に、福祉施設「カラコネオフィス」の入居を見越して設計されました。
設計段階から、カラコネオフィスが深く関わっているのですね。
「だって彼らはメンバーだから」。そう、伊藤さんは話します。
「ずいぶん昔の話ですが、肢体不自由者の方の入浴教室というボランティアをしてみたら、本当に大変でした。抱えて運ぶ係はバテてしまうし、湯船に入れる係はのぼせる。介助側の疲労から、いつしか物のように扱われ始める障がい者の方も気分を害する。あのときの誰も幸せでない光景は、忘れられなかったです」
「リニューアル後の御谷湯は、誰もが使いやすく豊かな気持ちになれる銭湯になりました。地域交流の場も残すことができて、私にとっては自分の夢が実現した場所なのです。カラコネオフィスのスタッフが指導し、障がい者の方が一生懸命掃除してくれることで、御谷湯を続けられることがありがたいです」
ボーンさんは、どんな方と一緒に働きたいですか?
「まずは人と関わることが好き、もしくは苦ではない方ですね。利用者さんの発言に、反論したくなることもあると思います。そんなときも、まずは彼らの発言を受け止められる方だといいです。障がいを抱える方とだけではなく、一般的なコミュニケーションに必要なことですよね。夫婦関係とかね(笑)」
「カラコネオフィスは、いろいろな人がいて普通。なので、年齢や性別、バックグラウンドを問わず、いろいろな方に来てほしい。地元に根付いていきたいという想いもあるので、墨田にご縁がある方だと尚いいです。福祉事業にどっぷり携わりたい方よりは、地域で活動したい方に向いているかもしれません」
カラフル・コネクターズという名称には『多様性を認め合える寛容な社会を目指して』という理念が込められています。
サービス管理責任者の小嶋康之さんが、カラコネオフィスの多様性について話してくれました。
「カラコネを利用される方は、知的障がい、高次脳機能障がい、脳こうそく、精神障がいなど、さまざまな障がいを抱えた方がいます。18歳から50歳までと年齢も幅広く、外国の方もいますが、私たちはカラコネオフィスで働きたいと希望される方を、全員受け入れてきました」
そういった方たちをサポートするスタッフの役割はどういったものでしょうか?
「具体的には、利用者さんが行う作業への指示や指導、自主製品のアイデア出しや製作のサポート、地域交流プログラムの提案や実施が主になりますが、なによりも利用者さんが気持ちよく働ける環境をつくること。これが仕事の大半と言えるかもしれませんね。多様な個性を持つ利用者さんとじっくり向き合って、作業の指示や指導をすることが大切になります」
会社員を経て、18年前から墨田区の福祉施設で働き始めた小嶋さん。以前、職場の同僚だったボーンさんに声をかけられて、立ち上げからともに働かれています。
立ち上げからこれまでで、大変なことはありましたか?
「日々、利用者さんの状態は違うので、想定通りに仕事が進まないこともあります。また、立ち上げ時は利用者さんも2、3名しかいなかったので、清掃作業そのものも大変でした」
小嶋さんは、この仕事でどんなときに働きがいを感じますか。
「徐々に団体生活に適応しできることが増えてくるとうれしいですよね。悪いところやできないことを見つけるのは、簡単じゃないですか。でも、よく見ていると『この人はこんなことが向いているのでは』と気付くことがあります。それを適切にアドバイスすれば、できるようになることがあります」
根気よく利用者の方と向き合い、得意なことを見極めてあげることと、そして過ごしやすい居場所を作ってあげることが、なによりも大事なことだそうです。
「極端な行動をとってしまう方を見て思ったんです。淋しいからじゃないかと。そうだとしたら、ここで見放すと、また居場所をなくして孤独を感じてしまう。正直、関わるのが面倒だと思うこともあります。淋しいからこそ話が長かったり、突飛な話で気を引こうとする人もいます。でも、人は多かれ少なかれ淋しさが元で行動するし、強めに特徴が出ているだけなので、ここで働く間は心穏やかに過ごせる居場所を作ってあげることが大事かなと思います」
昨年から、ここで働くスタッフの菅野有紗さんにもお話を伺いました。
大学では心理学を専攻し、学びを生かしてカウンセラーのような仕事に就くことも考えていたそうですが、卒業後に福祉系の専門学校へ通うことになります。
「専門学校へ通うことになったのは、本当に偶然でした。オープンキャンパスに行く友人に気軽についていったんです。元々、人のサポートをしたいという思いはあったのですが、そこで福祉に関わる制度を理解すれば、カウンセリングよりも直接的にサポートできるのではないかと感じました」
そうして精神保健福祉士の資格を取得した菅野さんが、カラコネオフィスと出会ったのはこれもまた偶然。専門学校の実習先というご縁でした。
「当時は離れた場所に住んでいたので、なぜここに配属されたのか今でもわからないのですが、ただ福祉施設なのに、銭湯の運営に携わっているのもおもしろいなぁと思っていました。その後、声をかけてもらって、働くことを決めました」
菅野さんが利用者さんとのコミュニケーションで心がけていることも、小嶋さんと同じくまずは相手の話を聴くという姿勢だそう。
「利用者さんの言いたいことや気持ちを汲み取れなかったり、逆に、私の話を理解してもらえなかったりということもあります。めげずに意思を伝えあうことで利用者さんの行動が変わり『菅野さんが気付いてくれたおかげで、自分は変われた』と言ってもらえたときは、うれしかったです」
仕事をする環境はどうですか?
「非常勤スタッフであっても賞与は出ますし、有給休暇も自由に取れます。残業もほとんどありません」
利用者さんの工賃を上げるために行われている自主製品には、菅野さんも企画を考えているそう。
「今は、ミシンを使って自主製品を企画していて、利用者さんの中にお裁縫が得意な方がいらっしゃるので、教わりながら試作をしています。まだまだ販売できるレベルにはないのですが、利用者さんとのいいコミュニケーションにもなっています」
オフィスに置かれた苔玉は、スタッフの方が企画し制作したもので、こういったものを利用者さんが制作し、販売できるレベルにまで持っていけないかと模索をされています。
現在、東京都の福祉作業所の平均工賃は月1.5万円。とても自分で自立できるほどの金額にはなりません。カラコネオフィスは、さまざまな事業を手がけることで約2万円の工賃を支払っていますが、それをさらに3万円まで引き上げるという目標があるそうです。
「一人ひとりの工賃を上げるためには、プラスアルファの業務を増やすことが必要です。そのためには、銭湯の清掃だけでなく、地域の困りごとを解決したり、自主製品を販売できるものにしたいと思っています」
仕事は、効率化するか、プロの力を借りるか、それでもできないことはやらないという方針のカラコネオフィス。小嶋さんが、仕事の進め方について教えてくれました。
「私たちの仕事は、地域と連携をしてプロの力を借りることが必要不可欠です。ハローワークや生活支援所、保健師や医師の方と協力し、さまざまな方向から支援をしています。また、自主製品の企画やパンフレットも、旧知のデザイナーさんにご協力いただくなど、福祉業界に留まらないつながりができるのは、この職場のおもしろいところかもしれません」
今後は、スタッフや利用者さんの得意なことや、興味のあることを生かした企画も増やしていきたいそうです。
「ここは、やってみたいことは実現に向けて動ける職場です。一緒に食事を作って食べる調理会や、得意な方であればスポーツ教室なども企画してほしいです。精神的な障がいを抱える方は、遊ぶことが下手だったり趣味がない方が多いのですが、ここがきっかけで社会との交流を持ってもらえたらと思っています」
今後は、もっと地域に根差した活動を増やしていきたい、その想いをボーンさんが話してくださいました。
「私たちが活動の拠点としている御谷湯は、今も地域のつながりを生み出す資源だと思っています。今、実現に向けて動いているのは、ここで駄菓子屋さんを開くこと。お寺にお供えされたお菓子を分けていただき、地域の子どもたちが気軽に立ち寄れる場所にしたいと思っています」
駄菓子屋さんという企画が生まれた背景には、隠れてしまいがちな子どもの貧困に気付けたらという想いもあったそうです。
「地域には、障がい者の方以外にも、生きづらい思いをしている方がたくさんいます。私たちは彼らの助けになり、地域で暮らす一人ひとりを大切にしたい。これまで障がい者というと、常にサポートされる側という見方をされてきました」
「しかし、日本の人口が減り、国や地域の力が弱くなっていく中で、障がいの有無を問わず住民それぞれの力が求められるときが必ずきます。障がいを抱えていても、地域の力になれる存在がいるということを、身近で暮らす方々に知っていただけるようにしたいです」
具体的には、どのような活動で知っていただこうと考えているのでしょうか。
「今は、銭湯の清掃現場を見ていただくことができないので、毎週金曜日には、利用者さんが御谷湯のスタッフとしてお客さまをお出迎えしています。常連の方が声をかけてくださり、よい交流になっています」
「業務としては、銭湯以外の場所の清掃や、高齢者さんの困りごとサポートなどをできたらと思っています。今年は、地元の牛嶋神社大祭で卒業生も清掃作業を手伝ったり、お祭りにも参加したりする予定です」
「銭湯は跡継ぎ不足や、重労働が原因で減少する一方です。これは夢物語ですが、いつか障がい者のマンパワーを生かして銭湯という場を続けることで、地域の役に立てたらという気持ちもあります」
出身地や世代、年齢、障がいの有無といった壁を越えて、地域で暮らす一人ひとりを大切にできる場づくりに挑戦するカラフル・コネクターズ。
カラコネオフィスに集まる多様性を力に変えて地元を支え、盛り上げていきたい方に、ぜひチャレンジしていただきたい仕事です。