建築でつくる人と人との繋がり STA 土屋辰之助アトリエ
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ご応募ありがとうございました。
東京の下町である墨田区は、長屋をはじめとした古い町並みが残り、人と人との交流が今でも濃いまち。そんな不思議な魅力にひき寄せられ、この地に住みながら地域と関わる活動を始める方が、年々増えています。
建築家の土屋辰之助さんも、そんなひとり。
建築家として、国の重要文化財の改修や世界遺産に関わる著名な建築に、長年携わってきた土屋さんが立ち上げた『STA 土屋辰之助アトリエ』は、これまでの経験を活かしてご自身が住む墨田区のまちづくりにも関わっていきたい、そんな想いを持った設計事務所です。
主に、公共建築、オフィス、個人住宅など様々な建築空間の設計を行っています。
今回は、この設計事務所で働いてくれる正社員、学生インターンを募集します。
墨田区に残る町並みや、建築を通してのまちづくりに関心のある方、公共施設などの仕事に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
墨田区向島1丁目、白い建物の2階にある事務所に伺いました。
裏手には牛嶋神社と隅田公園が広がり、目の前には東京スカイツリーがそびえ立ち、その足元には昔ながらの町並みが残る場所もある。
都会と下町そして自然にも恵まれた、ちょうど良い環境です。
建物の前で代表の土屋さんと待ち合わせていると、チャイルドシートを付けた自転車に乗ってやってこられました。ご自宅が事務所から近く、区内での行動はほとんどが自転車だそうだ。いわゆる建築家というイメージとは、ちょっと違う親しみやすい雰囲気です。
事務所に上がらせていただくと、中は改装中でした。
これまでは、本社である東駒形のご自宅と駅の反対側にある事務所の2ヶ所が仕事場でしたが、扱う案件が大きくなってきたのに合わせて、今年から新設されました。
まずは、現在進行中の東北の小学校設計チームの拠点として活動を開始します。
裏に牛嶋神社があることから、通称『USJ』と呼ばれるここは、元大工の大家さんが作業場として使っていた場所で、すぐにオフィスとして使える物件ではなく、敢えて自分たちで手を加えられる、墨田区らしい雰囲気や趣のある物件を探して決められたそう。
「これからこの拠点を中心として、様々なことを展開していきたい」という言葉の通り、ほとんどの改修を自分たちの手で少しづつ行っており、これからさらに魅力的な事務所になっていくように思います。
改装中のこの場所で、さっそく土屋さんにお話を伺います。
STA 土屋辰之助アトリエは、2009年に土屋さんが一人で立ち上げられた会社です。
プロジェクト自体は、別の設計事務所や工務店といった方々、またアルバイトスタッフや学生インターンと、関わる人数も多く基本的にはチームで動くことが多い。
仕事も同時に複数進行しており、プロジェクトの中心的な役割を担ってくれる専属のスタッフを募集されています。
建築士の仕事は、建築物の設計および建築現場での指揮・監督をする仕事。
建築をしたい、建物の内装を改修をしたいといったお客さんの要望を受けて、どういう風にしたら良いか一緒に話しながら提案をして進めていきます。
「今はDIYで作れたりもしますが、専門家のいいところは、プロジェクトを何回も繰り返し経験していて、完成後つかい始めてどうなるか等、先が見えるというところ。先回りして提案するのが役割かなと思います」
「また、家を建てるにしても法的な制約があって、士業である建築士がいないとなかなか申請ができないんです。デザインをする人でもありながら、法的な手続きや、工学的な構造とか設備のことまで、非常に範囲の広い仕事です」
今回募集する方には、図面を描くことと模型を作成がメインの業務になりますが、分かる方には法的な検討といった部分もお願いしたいそうで、柔軟で幅広く対応できると良さそうです。
また、建築士には資格が必須ですが、現時点でなくてもこれから取りたいという方なら問題ありませんし、実務経験がなくてもやる気があれば前向きに検討したいそうです。ただし、最低限のスキルとしてはCADがある程度使えること。
土屋さんは、明治大学理工学部建築学科出身で、その時の教授でもあった建築家の香山壽夫さんの事務所に、大学院卒業と同時に勤め学校や博物館といった公共施設を、長年に渡り手がけてきました。学生時代を含めれば既にキャリアとしては、20年以上にもなる。
「小学生の頃から建築家にはなりたいと思ってました。当時は、建築家って週刊誌に出てくるような人もいたりして、母親などを通してなんとなくだけどいい仕事だよって刷り込まれてたんでしょうね」
そして、墨田区に住み始めたのは、働き始めたのと同じ2002年の頃。
「大学院での研究が町家とかタウンハウスで、墨田区にも町並みを作ってるような住居が残っていて、下町はおもしろいなって。身近に見たいな、経験したいなってのが住み始めたきっかけでした」
そうして、昔ながらの町並みを身近に見られる環境に住みながら、様々な建築と関わっていく土屋さんですが、建築家でありながら実際に現場作業を手伝うことも多いという。
「本業としては、やっぱり図面を描いて設計することなので、どこまでできるかというところはありますが、自分たちでできることはやりたいなって想いはありますね」
現場に入り一緒に作業をして完成されたお店が、墨田区文花にあります。2015年にオープンしたヘアサロン「Ensemble hairsalon」は、STA 土屋辰之助アトリエが手がけています。
三角形の庭に面した倉庫を『できるだけ自分たちの手で作り変えたい』というオーナーの要望を受け、様々な提案をしたりインターンの学生を連れて、一緒にペンキを塗られました。
「完璧な建築じゃなくても、椅子と鏡があったらそれでヘアサロンという場になる、そういったものに関われるとおもしろいなって思ったんです」
「図面を描いてレイアウトを提案しましたが、町と関わるのであれば、ただ絵を描いて模型を作るだけじゃなくて、どんどん手を動かしていくことは必要だと改めて感じました。また、素人だと工務店に依頼できなかったりするので、中間に立つのも専門家の役割かなと思いました」
Ensemble hairsalonのオーナー、五十嵐さんにもお話を伺いました。
五十嵐さんは、表参道の美容室で長年勤務していましたが、子育てをきっかけにフリーのヘアメイクに転身。お子さんが大きくなったのをきっかけに、自宅の近くでお店を持ちたいという想いから、始められました。
「たまたま土屋さんと知り合った時に、場所があるからお店をやりたいという話をさせていただいたんです。そうしたら見学に来てくださって、おもしろいねって」
「ただ、私の中でまだ美容室を始めること自体どうしようかなって、揺れ動いていた部分があったんです。通りから見てもすごい裏だし、どうなのかなって思ってて。でも、土屋さんがおもしろいと言ってくださったのと、以前のお仕事の実績を見せていただいて、やりたいと思いました」
土屋さんに実際お願いしてみて、どうでしたか?
「まず原点として、土屋さんに会ってなかったら、ここまで思い切れなかったと思います。業者さんに依頼すれば美容室はできると思いますが、なるべくコストをかけずに自分でできることをしながらってなると、どうしたらいいか全く分かりませんでした」
「そういった意味でも後押しをしてくださったと思いますし、何度も足を運んでくれて何でも言いやすいし、何か言えばほんとに考えてくれる。すごく助かりました」
その他にも墨田区内では、東駒形の住宅の改修や中学校の新築なども手掛けてきた土屋さんの事務所は、2016年から『区内業者』に登録されました。
また、墨田区内在住・在勤のクリエイターが所属する『すみだクリエイターズクラブ』の一員として、地域の活動にも積極的に取り組まれています。
「その場所のことをあまり知らずに、箱だけ設計してさよならじゃ、おもしろくないし自分としてはイヤですよね。特に子供がいると場所に根付き、コミュニティとつながる。だから、建築で墨田区のまちづくりにも関わっていきたい、それを中心にしたいという想いは常にありますね。自分が関わることでどんどん町がよくなってくれたらいいですね」
「それに墨田区はいま、動いてますから。最近、解体が多くて、実は解体の設計というのも設計事務所の仕事になります」
作るだけじゃなく、解体も仕事なんですね。
「過去の建築の中にも有害物質が含まれているケースがあって、壊すにしてもちゃんと調査・分析して、分別しないといけません。また、近隣に迷惑をかけない方法を検討したり環境的に配慮するといったことが必要なんです」
建てるのと壊すのは、どちらが難しいですか?
「難しいという意味では、建築の設計は何もないものを作るので終わりがなく、どれだけ時間をかけても足りないくらいです。解体は壊すことが目的としてあるので、技術的には難しいですけど、終わりがある仕事ですよね。ただ、人間がつくる建築に関わるという意味ではどちらも重要です。特にこれからは建築を壊して自然に返していくことも必要です」
駅の反対側にある以前の事務所は、行き来できるほどの距離にあり、こちらもしばらくは残して活用されるそうです。
この仕事の大変なところはなんでしょうか?
「全部ですね(笑)実施設計なんて、端から端まで図面描いて壁から何ミリとか細かく決めるので、大変な作業ではありますね。それに、常に次回はこうした方がいいなどの繰り返しですよね。いくらプロで模型を作っても、実際に出来てみないと分からないことは多いですから」
「あとは、長期戦に持ち堪えれないとできないかもしれないですね。仕事の大小でその期間も変わりますが、重なったり入り組んだりするので両立する必要があるし、あとコミュニケーションをいかに確実にするかが重要です。関わる人も多いし、信用の積み重ねでできてるので、いろんなところをコントロールしないといけません」
この仕事のやりがいは?
「形になるだけじゃなくて、空間を作ることですね。中に入ったり、外から見たり、そういう存在のものを作る、発想する、それが形になる。あと関わる人が多いので、いろんな方と関われるのもおもしろさではありますよね」
「建物の一生としては、完成してからの方が長いわけですから、出来上がったものは気になりますよね。いわゆる1年検査、2年検査といった決められてるもの以外でもどうなったかなって、見に行くこともあります」
自分が作ったものが町に溢れるのって素敵ですね。
「そうですね。ただ一方でアートな側面もあって自分の作品が並ぶべきなのか、もしくはバランスをしっかり持った上で町並みに合う、わが町を作るということも大事なんです。そこをどう配慮するか今まさに求められてるんでしょうね」
土屋さんにとってお客さんとは、どんな存在でしょうか?
「公共の仕事が多かったので公共施設の方や、伊勢の案件だと神職の方と直接お話が出来たのが良い経験で、その人達から教えられながら鍛えられて育ったなってのはあります」
2011年に、土屋さんは式年遷宮の際の伊勢神宮内宮参集殿の改修を任されました。伊勢に限らず地方の仕事も積極的にこなし、普段から地方出張も多い。
「伊勢にはかなり行きました。地方の仕事をやるとなると、ちゃんと足を運びたいし、皮膚感というかその場所にいないと馴染まないじゃないですか。そこまでは通って、時間を共有したいってのはありますね」
「それに、いろんな地域に行くとおいしい食べ物があって、おもしろい行事がある。そういうのを見るのもいいですよね。僕は父親の仕事の関係で、転々としていたので『こきょう』とか『ふるさと』みたいなのが特にないんですよ。でも、その分どこに行くにも壁がないというか、先入観がなくて今の仕事に役立ってますね」
明治大学と東京電機大学の2つの大学で非常勤講師もされています。母校である明治大学ではもう5年にもなるそう。その繋がりで何人もの学生がアルバイトやインターンとして関わってくれているそうです。
今回募集する方は、ゆくゆくは土屋さんのパートナーとなってくれる中堅的な人から、将来的に独立したい方。さらに、これまでのアルバイトやインターン同様、これから勉強したい、学びたいという方まで幅広い方を求めています。
「事務所にいてやってもらいたいことも多いので、例えば子育て中で短時間勤務を希望される方でもいいですし、独立も支援したいと思っています。今回は長期的にというよりは、いろんな人が入ってくる最初の機会を作りたいというのがあります。その中で長く一緒にやっていける人が見つかればそれはそれでいいなと」
どんな方と働きたいですか?
「建築家には、これまでいた事務所の流れや作風があって、かち合わないこともありますが、そこは個人同士の相性かなとは思います。それよりも果てしなくてタフな仕事ですから、楽しみながら自分の技術やセンスを磨く高い目標を持って、それを忘れないでやってもらいたいです。それがあれば色々なことはあるけど、乗り越えられるとは思います」
他の事務所との大きな違いは、公共の仕事を多く手がけられていること。そして、大きな事務所とは違ったフットワークの軽さや、幅広い業務を担当できる点が魅力です。
「公共の仕事は、技術的にも高いレベルで要求されるので、大変だけどしっかりやっておくとどんな設計にも活かせて対応できます。これは結構大きいと思います。僕が前いた事務所では当たり前だったけど、独立してみるとそれができる人ってなかなかいません」
「それに、大きな事務所になると図面を描くだけのすごく部分的な仕事になりますが、小さな事務所は自分でちゃんとクライアントへ話に行けるところが大きいと思います。地方や施主さんのところにもぜひ一緒に行きたいですね」
ただ、設計するだけでなく、実際にお客さんのところに行って話しを聞いて、相手の気持ちに寄り添う。土屋さんがそうであったように、一緒に働く人にもそんな風な気持ちでやって欲しいそうです。
小さい事務所だから大変なことも多い。
でも、公共のような大きな仕事も、墨田区内の地域の仕事もできる、そんなフットワークの軽さは、ここならではなのかもしれません。
ただ言われたことだけをやるのではなく、自ら考え行動していけばきっとここでしかできない貴重な経験ができるはずです。そんな経験を土屋さんと一緒にしていってほしいなと思いました。